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【特集】「数値の裏を読む」

 さて、これまで、「シリーズ:研究開発力の将来について」(勝手にシリーズ化)にて、いろいろと追ってきた訳ですが、

#何を?0xF9C7

 今回は、ちょっと趣向を変えて、数値をナナメに読んでみたいと思います。0xF8A3

ソフトバンク、通期で最終黒字に転換
(2006年5月10日:ITmedia News)

「ボーダフォンを買って良かった」,ソフトバンクが決算発表
(2006年5月10日:NikkeiBP ITpro Network)

 通期で黒字に転換、ボーダフォンの買収も終え、ホクホク顔で会見されたところ、水を差すようで悪いのですが、以前から気になっていたことについて述べたいと思います。

 いままで、どこのネットニュースでも書かれていない(と思う)内容です。0xF9C5

 まずは、数値の確認です。

 速報値ベースで、

   経常利益: 274億9,200万円 (前期:452億4,800万円の損失)
   純利益:  575億5,000万円 (前期:598億7,100万円の損失)

   売上高:  1兆1,086億6,500万円 (前期比:32.5%増)
   営業利益: 622億9,900万円 (前期:253億5,900万円の損失)
となっています。この数値、よ~く覚えておいてください。

 つぎに、その成績表を見てみましょう。

〔2006年3月期〕

 決算短信【連結】

 ダラダラと書かれている中で、いくつかマークアウトしたいものがありますが、まずは30ページ、「(2) 重要な減価償却資産の減価償却の方法」です。

(以下、抜粋)

(2) 重要な減価償却資産の減価償却の方法
(2006年3月期決算短信【連結】より)

(耐用年数の変更に伴う追加情報)
 「通信機械設備」のうち、日本テレコム㈱で使用している伝送設備、交換設備、電源設備について、最近の除却実績に基づき実際稼動年数を調査し検証したところ、一部の設備について、これまで採用していた耐用年数との乖離が明確になりました。これを踏まえ、当該設備を利用して提供される基本的サービスの継続年数ならびに電気通信業界の技術革新サイクル等を総合的に勘案した結果、耐用年数をより実態に即したものとするため、主に6年としていた耐用年数を10年に変更しました。
 この結果、従来の方法と比較して売上原価に含まれる減価償却費が14,125百万円減少したことにより、営業利益、経常利益および税金等調整前当期純利益が同額増加しています。

(減価償却方法の変更)
 当社およびソフトバンクBB㈱等における「建物及び構築物」および「その他」に含まれる社内資産(主として建物付属設備及び器具備品)の減価償却方法は、従来、定率法によっていましたが、当期より定額法に変更しました。
 この変更は、同社等において前連結会計年度に行った本社移転により発生した多額の社内資産購入によって、その金額的重要性が増加したことを契機に、より適正な費用配分方法を検討した結果、その投資効果が平均的に生ずると見込まれるため定額法がより合理的であると判断したことによるものです。
 この結果、従来の方法と比較して売上原価が317百万円、販売費及び一般管理費が705百万円減少したことにより、営業利益、経常利益および税金等調整前当期純利益が1,023百万円増加しています。

(下線部は、筆者注記)

 記載されている内容から、まずは単純に、事実だけをまとめます。

   ・耐用年数の変更に伴う減価償却費の圧縮により、営業利益、経常利益および税金等調整前当期純利益が、14,125百万円(141億2,500万円)の増加
   ・減価償却方法の変更に伴い、営業利益、経常利益および税金等調整前当期純利益が、1,023百万円(10億2,300万円)の増加

 2つを合計すると、減価償却費の圧縮により、利益が151億4,800万円も、「見掛け上」増加していることになります。

 ちなみに、2006年3月期の経常利益は、「274億9,200万円」でした。
(ってことは、半分以上?)

 気になる方は、前年度分も見てみましょう。

〔2005年3月期〕 決算短信【連結】

 22ページです。

(以下、抜粋)

(2) 重要な減価償却資産の減価償却の方法
(2005年3月期決算短信【連結】より)

(当期における耐用年数の変更に伴う追加情報)
 主にADSLサービス用の設備として使用しておりましたバックボーン設備については、耐用年数を5年として減価償却を行ってきましたが、本年度10月より本格的にサービスを開始した「光ファイバーによるインターネット接続サービス(「Yahoo! BB 光」)」にも使用するため、他の光ファイバー用通信機械設備と同じく耐用年数を10年として、減価償却を行うことといたしました。
 この結果、従来の方法と比較して売上原価に含まれる減価償却費が3,034百万円減少するとともに、営業損失、経常損失および税金等調整前当期純損失が同額減少しております。
 なお、当該バックボーン設備は、連結貸借対照表上「通信機械設備」に含めて表示しております。

(下線部は、筆者注記)

 以前からやっていた訳です・・・。

 これが、何を「意味」するものなのか、いや、何を「意図」したものなのか、分かる方には分かると思いますが、分からない方には分からないと思います。

#まぁ、数値の目利きを無理矢理やらされている、ずぶのトーシローのワタクシだからこそ、気になったのかも知れません。例えば、某・中○青○監査法人のようなロープーな先生方からすると、まったく気にならないのかも知れません、ある意味、当たり前過ぎて。0xF9D1

 企業会計としては、「禁じ手のひとつ」を(理由は後述)、通信事業者としては、「暴挙に出た」ことになります。

 何が気になっているかというと、以下の2点。
(資産取得と減価償却費の基本については、めんどくさいので省略。自分で勉強してください)

(1) 通信機械設備の償却年数を、「10年」もの期間とした

 ふつう、パソコンでも、1年も経てば、機能的にはどうであれ、性能的には陳腐化し、前世代の機器となってしまいます。通信事業者が設置する「通信設備」についてはどうでしょうか。わずか3~4年前に爆発的に拡大したADSLサービスも、数Mのサービスは一部のルーラルエリアを除いて、主流は10数Mのサービスに取って代わりました。(そして、今や光サービスの時代)

 通信事業者としては、移り変わるユーザのニーズに応えるため、常に最新の機器を設備投資しなければならないのですが、実際のところ、投資の回収を十分にする前に、つぎつぎに次の世代の機器に更改しなければならない、というのが実情です。数年後にユーザの囲い込みができている(であろう)ことを見越して、先行して投資している訳です。(決して、「左うちわ」ではなく、「臥薪嘗胆」事業なのです)

 償却年数を長くすると、どうなるかと言うと、単年度で見たときの減価償却費の負担は軽くなりますが、陳腐化して、もはや使えなくなった機器に対しても、償却期間が終わるまでは、脈々と費用が立つ訳です。(途中で除却して、特損でも上げれば別ですが)

 電気通信設備の一般的な償却年数は「6年」ですが、ただでさえ更改サイクルが短くなってきている機器に対して、「10年」もの長い期間を設定するとは、通信事業者としては、もはや「常軌を逸している」としか言えません。(法的には問題ないのですが)

 短信には、「電気通信業界の技術革新サイクル等を総合的に勘案した結果」とありますが、どこをどうやって考えると、そういう結論に達するのか、まったくもって理解不能です。

(2) 償却方法を、「定率法」から「定額法」に、いつの間にか切り替えた

 取得した資産が残存価格に達するまで、「定額法」では、毎年同じ額を脈々と、「定率法」では、初年度は重く、後年度は軽く償却していきます。

 一般に、土地建物など、価値の変動が年度によって大きくなる場合があるけれども、長期のアベレージで見れば同じようになる資産については「定額法」で償却し、通信機器など、購入してから、陳腐化により一方的に価値の逓減が進むような資産については、早めに費用化するために「定率法」で償却します。

 本来、「定率法」で償却すべき資産を「定額法」に切り替えることによって、何が起こるかというと、
      「夏休みの宿題現象」0xF89F
が起こる訳です。

 どういうことかと言うと、日々コツコツ天気予報を見ていれば、大したことないはずなのに、間際になって焦ってやるので、本来、1で終わる苦労が、2にも3にもなってしまうという、例のアレです。

#もちろん、ワタクシは、後者の「イッキ型」だったですが。0xF9C7

 だいぶ脱線してしまいましたが、要は、前述の(1)と(2)の合わせ技で、何をしているかというと、本来支払うべき費用(この場合、減価償却費)を、“償却期間の長期化”と“償却比率の平均化”によって、「先送り」していることに他なりません。

 よって、2006年3月期においては、会計上は、151億4,800万円もの巨額の費用が、「浮いた」形になったのです。

 皆さん、0xF9C5

 このような、「会計手法による数値の変更」(「会計操作」とまでは言いませんが)、どこぞのネットベンチャー企業でも、同じようなことやってませんでしたっけ?
(粉飾決算指示で、最高経営責任者たちがみんなパクられちゃった、某社です)

 しかも、当期利益の半分以上をですよっ!

 さらに、ワタクシは意地悪なので、深読みします。0xF9D1

 足の短い通信機器の償却期間を、土木設備と同じように「10年」に変更したのが、2005年3月期の決算。

 ちょうど、携帯電話事業に新規参入するとかで、「オレにも電波よこせっ!他は不公平だっ!」とか言って、日経新聞に意見募集の一面広告まで出して、お上にご意見申し上げた(監督官庁にタテ突いた)ころに一致します。
(通信事業者のそれまでの常識では、考えられないようなことをやってくれました)

 某・損さんとしては、短期でも黒字化してお上に認めてもらって、何としても800MHz帯を確保したかった訳です。
(これには、さすがに同じ「愚連隊」のメンバーでさえ、反発してますが)

#その後、あれだけギャンギャン騒いで、さんざん引っかき回した挙げ句、ボーダフォンを買収したら、「もう要~らない」とか言って返上しちゃいましたが、どうせなら、「もらったもんは、放さないっ!」とか言って、もうちょっと世間と戦って欲しかったです、意固地になって。0xF9D1

 つづいて、半死半生の日本テレコムを叩きまくって買収し、「電気通信業界の技術革新サイクル等を総合的に勘案した結果」が、2006年3月期の決算。

 ちょうど、ボーダフォンを買収するために、小手先三寸、LBO(レバレッジド・バイ・アウト)による資金調達のために躍起になっていたころに一致します。

 某・損さんとしては、なりふり構わず黒字化して、何としてもパトロンからごっそり資金を集めたかった訳です。

 そう言えば、どこぞのネットベンチャー企業でも、球団やらテレビ局やらを買収するとかで、同じようなことやってませんでしたっけ?

#「業界の常識は、非常識。常識を破壊するっ!」はいいんですけど、自らの業で破壊されなければいいんですけどね、周囲を巻き添えにして。0xF9D1

 さて、0xF9C5

 物語は、まだまだ続きます。

 さきほど、「巨額の費用が浮いた」と言いましたが、単に支出を「先送り」しただけであって、「なくなった」訳ではありません。自ら設定した償却期間が終わるまで、粛々と払い続けなければなりません。

 「禁じ手のひとつ」と言った理由は、ここにあります。すなわち、儲かっているときはさほど大きな負担ではないのですが、儲かっていなくても、かなり以前に取得した資産にも関わらず、費用として出て行く訳です。しかも、それを払いつつ、他の通信設備をパラレルに更改していかなければいけないのです。

 それは、「夏休みの宿題現象」など、生易しいものでありません。ちょうど、拳法の「隠し打ち」のように、後から、じんわりと、しかし確実に効いてきます。

 数年後の決算公告が、ひじょ~に楽しみです。(ニヤリ)
(数年後が「あれば」の話ですが)

#まぁ、他人の庭のことなので、チューリップ植えようが大根植えようが、ど~でもいいことなのですが、某・平○電電のように、向こうからガチンコ勝負を仕掛けてきたにも関わらず、「潰れちゃったんで何とかしてください」とか後から言われても、ほとほと困りますので。0xF9D1

 どこぞの、可愛らしい動物やお姉ちゃんたちを使った「高利貸し」(←侮蔑的発音で)の宣伝ではありませんが、減価償却費の「操作」についても、
      「ご利用は計画的に」

 お後がよろしいようで・・・。0xF9C7

#あっ!

 そう言えば、短信に出ている「連結有利子負債」の額、見といてくださいね。目ん玉、飛び出ますから。0xF8F2
(これだけの額、試しに某・ア○フルから借りたらどうなるんでしょうね?一気に見たこともないような天文学的数字に? まぁ、借りれないですけれども、営業停止で)

〔関連情報〕
   ・研究開発力の将来について(その1) ~ものづくりの力~
   ・研究開発力の将来について(その2) ~静かに、そして着実に~
   ・研究開発力の将来について(その3) ~ファイナンシャル・マジック~
   ・研究開発力の将来について(その4) ~子供に見せられない~
   ・研究開発力の将来について(その5) ~タレント学者の罪~
   ・研究開発力の将来について(その6) ~決戦は木曜日~
   ・研究開発力の将来について(その7) ~珍妙な改革案~

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Comments(2)

私なんぞ、たった一行しか書けなかった内容でしたが、よくここまで整理整頓されましたね。お見事としか言いようがありません。今後もネタ提供できるよう、精進します(謎)

posted by  hrk at 00:53:35 2006/05/17 | reply

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