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HIDバーナーの蒼白化
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'03/06/01初版,'03/07/03更新

[注 意]

 ここで紹介するDIYは、HIDバーナー本体の改造を行っているため、万一破損した場合や不具合が発生した場合でも、メーカーの保証は受けられません。改造を行う場合には、全てご自分の責任で行ってください。

[はじめに]

 これまで「PIAAコバルトスーパーHIDバルブの取付」や「高輝度白色LEDポジションランプの製作」にて、ライティング関連の蒼白化の取り組みを行ってきました。
(職人は、いわゆる「光りものマニア」なのです。)0xF9C7

 この「PIAAコバルトスーパーHIDバルブ」(以下、「コバルトHIDバーナー(*1)」)、さすがに色温度6,000Kを謳うだけあり、ノーマルの4,100Kとは比べものにならない程の青白い光を放ってくれます。

 しかし、点灯直後は確かに青白いのですが、時間が経過し、バラストの電流制御が定常状態になるに従って、それほど青白く感じなくなってしまいます。
(慣れというものは、恐ろしいものです。)0xF9C7

 現在では、6,000Kのさらに上をいく、7,500Kや9,000Kというもの凄い(?)バーナーが製品化されています。しかし、色温度が高くなるに従って、とても大きな「弊害」が出てきてしまいます。それは、雨や霧などの、悪天候時の視認性が大きく低下してしまうことです。
(おそらく、夜の山道を走っていて、突然ガスってしまった時などには、怖くて走れないことでしょう。)

 せっかくHIDヘッドランプを純正採用することによって夜間の視認性を高めたにも関わらず、色温度が高すぎるバーナーに置換したことによって、悪天候時の安全性がスポイルされてしまったのでは、本末転倒になってしまいます。
(現行ARISTOのHIDヘッドランプも、発売直後は涼しげな青白い光を放っていましたが、ある時期から黄色っぽい白い光に変わりました。これは、見た目の斬新さよりも、夜間の視認性を高めることを採ったものと思われます。)

 はたして、色温度をいたずらに高めずに、点灯直後の青白さを保ち続ける方法はないのでしょうか? また、解き放たれる光の量を、さらに高める方法はないのでしょうか?

 そんな悶々とした日々を送っていたところ(ちょっと大げさ)0xF9C7、偶然にも、この工房を通りかかった「K-L」さんという方から、非常に貴重な情報をいただくことができました。ここでは、「K-L」さんからいただいた情報をご紹介すると共に、その情報を元に、実際に実験を行った結果についてご紹介することにします。

 なお、「K-L」さんの正体は明かせません。(意味深・・・。)

*1 HID関連でいうところの「バルブ」と「バーナー」とは、同じ意味で使われていますが、ここでは“燃焼させて光を得るもの”という意味が本来の働き(放電)に近いことから、「バーナー」という言葉を使うことにします。

[HIDバーナーの種類について]

 まずはじめに、HIDバーナーの種類について、復習しておきましょう。

[写真1]
pale_hid01.jpg
  • HIDバーナーには、大きく分けて2つの規格があります。
  • (写真1左)は、一般的なHIDヘッドランプに使われているもので、「D2R」というタイプです。
  • (写真1右)は、主にプロジェクター型のHIDヘッドランプに使われているもので、「D2S」というタイプです。
  • D2RおよびD2Sには、その他にも「+(プラス)」タイプがありますが、長くなるので割愛します。
  • また、HBタイプやH7タイプなど、既存のハロゲンランプとの置換ができるよう、台座の形状を工夫したものもあります。
 
[写真2]
pale_hid02.jpg
  • D2RとD2Sとの違いは、「ガラス管面のレジスト(*2)の有無」と「台座の形状(切り欠きの位置)」です。(写真2)
     
    *2 HID関連でいうところの「スリット」と「レジスト」とは、同じ意味で使われていますが、ここでは“光を遮るもの”という意味で、「レジスト」という言葉を使うことにします。
 
[写真3]
pale_hid03.jpg
  • (写真3左)のD2Rは、ARISTO純正のHIDヘッドランプに装着されていたもので、PHILIPS製でした。
  • (写真3右)のD2Sは、「PIAAコバルトスーパーHIDバルブ」で、OSRAM製でした。

[黄色い光(グレア光)の正体]

 さてそれでは、黄色い光の正体について、解き明かしていくことにしましょう。

[写真4](写真提供: K-Lさん)
pale_hid04.jpg
  • 皆さんは、このHIDユニットからの光、どちらが青白く見えますか?(写真4)
  • もちろん、右側のユニットの方が青白く見えますよね。
  • 実は、右側のユニットに組み込まれているHIDバーナーには、“とある加工”が施してあるのです。
    (ちなみに、このHIDユニット、一見ふつうのHIDプロジェクターのように見えますが、そんじょそこらのHIDユニットとはちと違います。詳しくは後述します。)

 現在、純正採用されているHIDヘッドランプのバーナーは、そのほとんどが4,100Kのものが使われています。しかし、同じ4,100Kのバーナーでも、ARISTOのものは黄色っぽく見えて、ACCORDのものは青白く見えるのはなぜでしょう?

 その違いは、バーナーを取り囲むリフレクター(反射板)の設計にあります。言い換えると、「バーナーからの光を、どのように効果的に使っているか」ということです。
(詳しくは後述します。)

 バーナーから放たれる光は、基本的には水銀灯と同じような「白い色」をしています。しかし、信じられないかも知れませんが、ある方向にだけ「黄色い光」が出ているのです。この「黄色い光」を、うまく使わないようにしている(遮光している)リフレクターを持つHIDヘッドランプは、たとえ4,100Kのバーナーであっても、青白く見えるのです。

 ネット上には、実にさまざまな方法で、この「黄色い光」を遮光し、HIDヘッドランプからの光を青白くする試みが紹介されています。しかし、いずれも、「黄色い光が出るからそれを防ぐ」という対処療法的な方法であり、「黄色い光そのものを出ないようにする」という根本的な解決方法については、未だ紹介されていないようです。

 それでは、この「黄色い光」は、なぜ発生するのでしょうか?

 その答えは、ずばり、「セラミックチューブの色」にあります。

 「セラミックチューブ」とは、バーナー台座からガラス管上端へ伸びる電極を保護している陶磁器のことです。

 HIDヘッドランプを正面からよ~く見ると、バーナーの上半分は白い光が出ていますが、セラミックチューブのある下半分は、少し黄色み掛かった光が出ています。これは、バーナーから放射された光がセラミックチューブに反射し、反射した光が再度バーナーで反射するため、色温度が冷えてしまい、「黄色い光(グレア光)」が発生しているからなのです。
(ただし、HIDヘッドランプを長時間直視することは、眼に悪いので止めましょう。)

 さて、このセラミックチューブですが、一般的なバーナーは「茶色」をしていますが、あるメーカーのバーナーは、「灰色」をしています。

[写真5](写真提供: K-Lさん)
pale_hid05.jpg
  • (写真5左)は、PHILIPSのバーナーで、セラミックチューブは「茶色」です。
  • (写真5右)は、Panasonicのバーナーで、セラミックチューブは灰色」です。

 「それだけのことか」とお思いになるかも知れませんが、「たったそれだけのこと」で、色調が微妙に異なるのです。

 これは、実験によって確かめられています。Panasonicのバーナーは、OSRAMやPHILIPSのバーナーと違い、セラミックチューブが灰色のため、反射した光が白っぽくなり、同じ4,100Kであっても、純白に近い色調となっているのです。

 これは何を示しているかというと、「セラミックチューブの色」が、バーナーから解き放たれる光の色調に、非常に大きな影響を与えている、ということなのです!
(ということに初めて気が付き、その抜本的な解決方法を編み出したのは、国内ではおそらく「K-L」さんが初めてではないでしょうか。)

[グレア光対策(その1)]

 それではまず、セラミックチューブから反射する光を抑え、グレア光をできるだけ少なくする方法について紹介します。その方法とは、「レジスト剥がし」です。

[写真6](写真提供: K-Lさん)
pale_hid06.jpg
  • (写真6左)は、加工前のD2Rです。ガラス管面に、セラミックのレジストが焼き付けられています。
  • このレジストを、カッターで少しずつ削り取っていきます。
  • カッターは、手が滑らないよう、できればグリップ付きのものを使用します。さらに、少し削っては刃を折って、常に切れ味の良い状態で作業しましょう。
  • (写真6右)は、加工後のD2Rです。レジストを削り取った部分が、すりガラスのように少し曇っています。
  • 実は、この「曇り」が重要なのです。

 「レジスト剥がし」は、ガラス管面にある「曇り」によって、セラミックチューブに反射した光が、さらにバーナーで反射して戻ってくることを抑える働きがあります。これによって、厄介なグレア光を、少なくすることができるのです。

 ARISTO純正のHIDヘッドランプのバーナーは、D2Rです。したがって、まずはこの加工をすることにより、色温度の高いバーナーに交換しなくても、放射光の「蒼白化(純白化)」を図ることができます。

(とは言っても、SOARISTO号はCIMA複眼に変わってしまっているので、実験することができません。どなたか実験された方は、ご報告いただけると幸いです。)

[グレア光対策(その2)]

 さらに進んで、そもそも「黄色い」グレア光を出ないようにする、=セラミックチューブからの反射光を「別の色」に変えてしまう、という方法はないでしょうか。そのヒントは、(写真5)にあります。

 そうです、「セラミックチューブの色」が、バーナーの色調に大きな影響を与えていたのでした。すなわち、セラミックチューブを「別の色」に変えてしまえば、「黄色い」グレア光は全く出ないことになります。

 そこで、「青には青を!」ということで、青っぽい光を出すために、セラミックチューブを青く塗装することにします。

[写真7]
pale_hid07.jpg
  • セラミックチューブの着色に使用する、「オキツモ」さんの耐熱塗料です。(写真7)
  • 「オキツモ」さんの耐熱塗料には、筆塗りタイプやスプレータイプのものが発売されています。また、耐熱温度には、200℃や500℃のものなどがあります。
  • 今回は、スプレータイプで、耐熱温度500℃、色は「コバルトブルー」の、[B75-30P](定価2,200円)を使用しました。

 この耐熱スプレーですが、特殊な製品であるためか、いろいろなところを探し回りましたが、けっきょく発見することができませんでした。最終的には、「K-L」さんにご提供いただくことになりました。
(「K-L」さん、どうもありがとうございました。)

 また、使用方法を読むと、「塗る前に、激しく振ってください。」と書いてあります。これまで、「よく振ってください。」とは見たことがありますが、「激しく振ってください。」とは、“初めて聞きました。”(U.T.風) いったいどれくらい振ったらいいのでしょうか?(笑)

 どうやら、一般的なスプレーに比べて、塗料成分が重く、沈殿しやすいようです。中のビー玉がカシャカシャ音を立てるまで、とにかく激しく振ってください。

 なお、耐熱塗料でない通常の塗料は、絶対に使用しないでください。バーナーの点灯時には、セラミックチューブの表面は非常に高温になります。通常の塗料を使った場合どうなるかは、「火を見るよりも明らか」です。

[写真8]
pale_hid08.jpg
  • 塗装する前に、厳重にマスキングをします。(写真8)
    (職人は、「プラモ上がり」なので、マスキングは妙に上手かったりします。現在は、「実物大のプラモ」をいじってます。)0xF9C7
  • 塗装は、できるだけ薄く塗ることがポイントです。厚く塗りすぎると、高温になった時に、ひび割れて剥がれてしまいます。使用方法の指示では、20~25ミクロンとなっています。
    (そんなこと言われても、分からないですけど。)0xF9C7
 
[写真9]
pale_hid09.jpg
  • (写真9左)は、塗装前のバーナーです。
  • (写真9右)は、塗装後のバーナーです。セラミックチューブと、ガラス管の付け根部分が、きれいなコバルトブルーになっています。

 なお、バーナーをHIDユニットに組み込む前に、たいへん重要な処理があります。「焼き入れ」です。

 バーナーをHIDユニットに組み込まない状態でバラストに接続し、10~15分程度点灯します。点灯後、しばらくすると煙が出はじめます。煙が出なくなったら、焼き入れを止めます。焼き入れをすることにより、塗料に含まれていた有機ガス成分が揮発すると共に、塗料が硬化します。
(バーナーを、焼き入れをせずにHIDユニットに組み込むことは、絶対にしないでください。煙がHIDユニット内に充満し、たいへんなことになります。)

 また、これはグレア対策(その1)(その2)とも共通ですが、バーナーをHIDユニットに組み込む前に、ガラス管面の微細なチリやホコリを、エアジェットで取り除くと共に、ガラス管面をアルコールで脱脂しておきます。
(脱脂しておかないと、バーナーが熱で破損する原因となります。)

[装着比較]

 それではさっそく、「CIMAマルチプロジェクターキセノンヘッドランプ」にバーナーを組み込んで、色調の違いを比較してみることにしましょう。

[写真10]
pale_hid10.jpg
  • 「ブルーペイント」前の色調です。(写真10)
 
[写真11]
pale_hid11.jpg
  • 「ブルーペイント」後の色調です。(写真11)

 さて、どうでしょう?

 劇的に変わった、という感じではなく、微妙な違いではありますが、それでも、明らかに色調が変わったことがお分かりいただけると思います。

 (写真10)では、「黄色っぽい」(どちらかというと「赤紫っぽい?」)光が出ていますが、(写真11)では、その「黄色っぽさ」が無くなり、「純白」な光に変わっています。加えて、なんとなく前より明るくなっているような気がします。
(別にPhotoshopで色調をいじって、ズルしている訳ではありません。またデジカメは、絞りとシャッター速度を同じにして、同一条件で撮影しています。)
(車高が異様に高いのは、密かにハイドロ仕様にしたため、ではなく、リフトに載っているためです。)0xF9C7

[写真12]
pale_hid12.jpg
  • 夜間、路面を照らした状況です。(写真12)

[写真13](マウスカーソルを画像の上に!)
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  • 夜間のフロントマスクです。(写真13)

 初めて乗り出して路面を照らした瞬間に、「黄ばみ」が取れて、「HID本来の白さ」が戻ってきたような感じを受けました。「蒼白化」というよりは、「美白化」といった方が、イメージに近いかも知れません。

 正直、こんなに効果があるものだとは、予想していませんでした。セラミックチューブを「ブルーペイント」するという、たったそれだけの違いで、これだけ変わるのですね。

 なお、上記の色調は、「CIMAマルチプロジェクターキセノンヘッドランプ」と「PIAAコバルトスーパーHIDバルブ」との組み合わせにおける結果であり、ARISTO純正のHIDヘッドランプでは、必ずしも同じ結果が得られるとは限りませんので、ご注意ください。

(と思っていたら、「よしき」さんから、「純正HIDヘッドランプ」と「PIAAコバルトスーパーHIDバルブ」との組み合わせでの実験結果をお送りいただきましたので、後述します。)

[おわりに]

 今回のDIYにあたり、非常に貴重な情報をご提供いただきました「K-L」さん、たいへんありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。

 また、夜遅くまでフロントバンパーの脱着にお付き合いいただきました、「トヨタビスタ北千葉」の安○さん、金○さん、どうもありがとうございました。

[おまけ1] “バイキセノンプロジェクターユニット”

 前述の(写真4)に登場したHIDユニットは、「K-L」さん秘蔵の「バイキセノンプロジェクターユニット」です。

 「バイキセノン」とは、1つのHIDユニットで、LowビームとHighビームの2つの光を放つことができるもので、すでにBMWさんやMercedes-Benzさんの新型車で採用が始まっています。

[写真14](写真提供: K-Lさん)
pale_hid14.jpg
  • これが、「バイキセノンプロジェクターユニット」です。(写真14)
  • 写真のユニットは、BMW用のもので、いわゆる「Eagle Eye」と言われているものです。
    (なぜにこのような代物が国内で手に入るのかは、謎。)0xF9C7

 LowビームとHighビームの切り替えの仕組みですが、ひょうたんからこま的で、割と簡単です。電磁ソレノイドによって、HIDバーナーの前にある遮光スリットを上下させているだけです。

[写真15](写真提供: K-Lさん)
pale_hid15.jpg
  • バイキセノンの内部を撮ったものです。
  • 遮光スリットが上がった状態(Lowビームの状態)です。(写真15)
 
[写真16](写真提供: K-Lさん)
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  • 遮光スリットが下がった状態(Highビームの状態)です。(写真16)
 
[写真17](写真提供: K-Lさん)
pale_hid17.jpg
  • Lowビームの時の配光パターンです。(写真17)
  • 下半分に鋭くカットされています。
 
[写真18](写真提供: K-Lさん)
pale_hid18.jpg
  • Highビームの時の配光パターンです。(写真18)

 ARISTOのHiビーム側に移植してみるのも、面白いかも知れませんね。

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